サックス用リードについて

saxophone-reed 機材紹介

今回は主にお店としてのリハーサル・スタジオのお話になりますが、皆さんリハスタの受付でギターの弦やベースの弦が売られていることが多いのはご存知でしょう。演奏していて弦が切れてしまうこともあるので当然といえば当然ですよね。ではサックスのリードは? ギターの弦に比べると見かけることは少ないのではないでしょうか。今回はリハスタの受付でサックス用リードを販売するといいですよ、というお話です。

リハスタとサックスとの関係

皆さんリハスタはいったいどういう利用目的/楽器で利用される人が多いと思われますか? “リハーサル”というぐらいだからバンドのリハーサルが多いだろうと思われるかもしれません。それぞれのリハスタによって利用目的の傾向は様々ですからもちろんそのようなバンド利用が中心のリハスタも当然ありますが、全体的に見ると実はリハスタにおけるバンド利用は必ずしもその中心であるとは言えません。バンド利用ではなくお一人での個人練習、そしてお二人でのマンツーマン・レッスン利用が実は意外と多いのです。特にコロナ禍により、大人数のバンドでしょっちゅう集まってみんなで練習するという習慣がかなり減少してしまいました。現代的なスタジオにおいてその基礎的な売上を支えているのは、実はバンド利用よりもお一人やお二人での利用だったりするのです。

ではそのようなお一人やお二人でのスタジオ利用、いったいどの楽器の方が多いのでしょうか。一般的に人気がある楽器(あるいはパート)というとギターやボーカルですが、個人練習やレッスンでスタジオ利用される率が多いのはギターやボーカルではありません。答えは管楽器とドラムです。理由は簡単で、どちらも自宅で練習したりするのが難しいからです。特に都市部では、よほど防音環境が整った住居でなければ管楽器やドラムの練習をするのは難しいですよね。

そのような“自宅で練習しにくい楽器トップ2”の一方を占める管楽器ですが、具体的にはどのような管楽器の方が多いかというと、やはり圧倒的に多いのがサックスです。サックスはジャズはもちろん、クラシックやポップス等幅広いジャンルで人気の楽器ですので、管楽器の中でも演奏者人口はトップクラスです。

そんなサックスですが、演奏に絶対必要なのが「リード」という部品です。ギターのような弦楽器における弦に相当する重要な部品ですが、このリードって意外と損耗したり持ってくるのを忘れたりしがちなんですよね。その割にリハスタに置いていない。急いで入手するには楽器店に走らなければいけないんですが、リードを置いている楽器店が必ずしも近くにあるとは限りません。そんな時、リハスタの受付でギター弦の隣にリードが置かれていると非常に助かるわけです。

サックス用リードの基礎知識

サックス用のリード。サックス・プレーヤーにとってはお馴染みの物ですが、それ以外の人々にとってはけっこう謎な部品ですよね。ここでは簡単にリードとはどんなものなのかをまず解説します。

リードとは

まず、管楽器はトランペットやトロンボーンのような金管楽器とサックスやクラリネットやフルートのような木管楽器に分かれます。これは管体が金属製なのか木製なのかは関係ありません。金管楽器とは演奏者の唇の振動によって発音する管楽器の事を言います。そして木管楽器とは、リードという部品や空気といった唇以外の物を振動させることによって発音する管楽器の事を言います。

木管楽器で用いられるリードは楽器によってそれぞれなのですが、サックスやクラリネットで用いられるリードはケーンというアシの仲間の植物を削って作られた板状の部品です。アイスクリームを食べる木のスプーンに似ていますね。これを楽器の吹き口(「マウスピース」と言います)に取り付けます。リードを付けたマウスピースから息を送り込むことでリードが振動し、音が鳴る仕組みになっています。楽器の音色の大元になっているので、ギターにおける弦と同じでこのリードが無ければサックスの音は一切出ません。しかしこれは写真で見ても分かるように非常に薄い板状の部品ですので割れたり無くしたりしやすいのです。

リードの種類

サックスという楽器は一種類ではなく、出せる音の高さによって数種類あります。主に使われるのは音が低いものから順にバリトン・サックス、テナー・サックス、アルト・サックス、ソプラノ・サックスといったところです。中でも最もポピュラーなのがテナー・サックスとアルト・サックスです。

テナー・サックスとアルト・サックス の画像
左の大きい方がテナー・サックス、右の小さい方がアルト・サックス

そしてリードはこのそれぞれのサックスの種類によって大きさが異なっており、テナーはテナー用の、アルトはアルト用のリードがあります。より低い音域のサックスほど楽器の大きさが大きく(逆に言えば高い音域のサックスほど楽器の大きさが小さく)、それに比例してリードの大きさも低い音域のサックス用のリードほど大きい(これも逆に言うと高い音域のサックス用のリードほど小さい)のです。従って、リードを製造している各メーカーはそれぞれの音域のサックス用のリードをパッケージした商品を販売しています。

さらにそれぞれのリードは硬さのグラデーション(段階)があります。表記はメーカーやブランドによって異なりますが、例えば柔らかいものから順に「2、2半、3、3半、4……」のように数字(番手)で硬さが表されていることが多いです。サックス奏者は自分が吹奏しやすい硬さのリードを選んで使うのです。

リードの販売形態

そのように販売されているリードのパッケージとはどのようなものかというと、アルト用ならアルト用、テナー用ならテナー用のリードの、同じ硬さの番手のものがたいてい5〜10枚ほど、たばこの箱ぐらいの大きさの紙箱に入っています。

さらにそれぞれ一枚ずつのリードはプラスチック製や紙製の鞘(さや)に収められており、メーカーによってはその鞘に入った一枚ずつのリードがお菓子のように(大袋に入ったキットカットのように(笑))個別包装されていたりもします。

リードというのは先に説明しましたように植物を削ることによって作られている性質上、一枚一枚の品質が必ずしも揃っているわけではありません。一流メーカーの製品であっても、鳴りの良い個体もあればいまいち鳴りが良くない個体もあったりするものなのです。従ってサックス奏者は一般的には一箱のパッケージに入っている5〜10枚のリードの中から自分が吹奏しやすいものを選定して演奏に用いることが多いです。楽器店ではこの箱を一つのパッケージとして販売しているのが普通ですが、楽器店によっては中身の一枚一枚をバラ売りしていることもあります。価格はメーカーやサックスの種類(アルトかテナーか、等)によって色々ですが、(さらにはリードは多くが輸入品ですので円相場によっても違ってきますが、)例えばアルト用で10枚入りの箱だと概ね3,000〜4,000円といったところです。

ではスタジオで販売する場合も楽器店でそうされているのと同じく箱単位での販売をすればいいのかというと、それはあまりお勧めしません。スタジオには個人練習のサックス奏者の方々が多く来られるとはいえ、基本的には利用者それぞれがご自身のリードを持って来られます。楽器店に併設のスタジオという訳でないのであればお客様はお店にリードを買いに来られるわけではありませんので、リードは楽器店ほどには売れる訳ではありません。また、奏者によって好みのリード・メーカーや硬さは様々ですし値段もそこそこ高いので、箱で買うとなると基本的には自分の好みの物になります。スタジオでリードが売れるのは、リードを持ってくるのを忘れたり破損・紛失してしまった場合の“緊急避難的な”用途がほとんどです。リードのアイテム数はメーカー(ブランド)×サックスの種類×硬さの数だけありますので膨大な数になりますが、楽器店ほどにはリード需要がないスタジオにおいて主に緊急避難的な用途で購入してもらうためにそれだけの在庫を抱えるのはリスクが高いでしょう。

ではどうすればいいかというと、まず箱売りではなくリード一枚一枚のバラ売りを基本とします。幸い最近のリードは一枚ずつが鞘に入っていることが多いですので、バラ売りをするにも困りません。また、どのようなリードを取り扱うかについては、非常にメジャーなブランドを数種類だけ、アルトとテナーのポピュラーな硬さのもののみ置くというのが賢明です。チョコレート界におけるキットカットのような、絆創膏界におけるバンドエイドのような、セロハンテープ界におけるセロテープのような、とりあえずはそのブランドなら緊急時用としてなら多くの人が納得するようなブランドのものを置いておくということです。硬さに関して言うと2半(「2 1/2(二と二分の一)」と表記されるのが一般的)が良いでしょう。真ん中より少し柔らかめで、使用人口が多い番手です。ちょうど真ん中ではなく少し柔らかめの番手とした理由は、普段硬い番手のリードを使っている人は少しくらい柔らかい番手のリードでも吹けますが、逆に普段柔らかい番手のリードを使っている人はそれよりも硬い番手のリードで吹くことはなかなか難しいからです。要約すると、アルトの2半とテナーの2半をそれぞれ1〜2ブランドだけバラ売りで取り扱う、ということです。では実際に製品を見てゆくことにしましょう。

おすすめのサックス用リード

サックス用リードを製造しているメーカーは沢山ありますが、中でも「Vandoren(バンドーレン)」と「Rico(リコ)」とが二大ブランドです。両ブランドそれぞれの中にさらにいくつもの製品があるのですが、今回はそれぞれの最もポピュラーなものを紹介します。

Vandoren 『Traditional』

まずはVandorenの看板商品である『Traditional(トラディショナル)』です。通称は『青箱』。

初心者からプロ演奏者に至るまで、世界中で幅広く使われています。とても薄い先端部分からピュアな音質が生み出されるようにデザインされています。また、振動する部分のコシが強く、吹きやすいのに力強い音を出せます。クラシック用途寄りな印象を持たれがちですが、ジャズやポピュラーのジャンルにおいても使う人は多く、ある意味万能リードと言えるでしょう。リードの硬さの数字は実は同じ数値でもメーカーやブランドによって実際の硬さが違うのですが、サックス奏者同士の会話でリードの硬さを表現する際に「青箱の◯番ぐらいの硬さ」等と言われるほどにスタンダードになっているリードです。この『Traditional』に限らず、ですがVandrenのリードは一枚一枚が個別包装されているのでバラ売りにも最適です。「何か一種類だけ!」となったら迷わずこの『トラディショナル』でしょう。

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D’Addario 『RICO』

Vandorenと並んで人気のあるブランドが「RICO(リコ)」です。元々はRICO社が製造していたリードなのですが、RICO社2004年にギター弦で有名なD’Addario(ダダリオ)社の傘下に入りました。しかしRICOのブランド名はそれからも現在に至るまで存続し、サックス奏者にとってはD’Addarioという社名よりもRICOというブランド名で親しまれています。RICOブランドの中にもいくつも製品はあるのですが、ここで紹介するのはその中でも最もスタンダードな『RICO』です。

こちらも歴史は古く、1930年代から数多くのミュージシャンに愛用されてきました。個人的な感想ではありますがVandrenのTraditionalよりも鳴らしやすい印象があり、初心者にも向いています。それでいながら音色はしっかりとしており、世界中で使われているスタンダードです。Vandrenのリードに比べて価格が少し安い傾向にあるので、「とりあえず緊急に一枚欲しい!」という方が買いやすく、スタジオの受付でバラ売りで取り扱うのにも向いています。

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まとめ

今回はスタジオの受付で取り扱うのに適したリードを2ブランドご紹介しました。アルトとテナーでこの二種類を置いていれば、サックス奏者の緊急需要の80%ぐらいには応えられるのではないでしょうか。もし余裕があるのであればソプラノ・サックス用やバリトン・サックス用のリードも少しだけでも置いておいてもよいかもしれません。食べ物みたいに腐る訳じゃないですから(笑)。せっかくスタジオを利用しに来てくれた方がリード忘れで利用できないなんてなってしまっては残念ですし、スタジオ側としてはお客様に喜んでいただけるサービスの一環としてバラ売りリードの準備はしておきたいところですね。

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