こんにちは、ウマノです。
今回は「スタジオの売上を上げたいなら椅子を替えろ!」というお話です。
「アンプとかの機材を新しいもの替えたりするなら分かるけど、椅子?」と思ったかもしれません。
もちろん音楽機材の更新はスタジオにとって必須です。
でもそれよりも費用対効果が大きいのが“椅子”なんです。
スタジオにおける料金と利用時間の関係
その意味を理解するためにはまずスタジオにおける料金と利用時間との関係についてよく理解しておく必要があります。
スタジオやレンタル・スペースは基本的には「時間貸し」形態ですよね。
もちろん「一日の間なら何時間でも同料金」というスタジオもあるかもしれませんが、どちらかと言えばそれは少数派だと思います。
1時間利用なら1時間分の料金、2時間利用なら2時間分の料金……という料金体系の方がメジャーだと思います。
お客様の利用時間が長いほど売上としては大きくなる方式ですね。
つまり、まず前提として、ここでお話しするスタジオは
- 単価(1人あたりの料金)×人数×利用時間数
- 単価(部屋料金)×利用時間数
のいずれかで料金を頂くものとします。
先ほども書きましたが、これはレンタル・スタジオのメジャーな方式だと思います。
もちろん長時間の利用の場合に割引サービスを設定していたりして全てが単純にこの通りであるわけではないでしょうが、基本としてはこういう感じで
「利用時間が長いほど予約枠が埋まる=売上が上がる=スタジオとしては嬉しい」
という図式です。
一般的な飲食店とかだと短時間滞在でも長時間滞在でも1組あたりの売上はそこまでは変わりません。
従って飲食店では売上を上げるために回転率を上げる方向で施策を考えることが普通です。
しかし、スタジオの場合は1組あたりの利用時間が長くなるとそれに概ね比例して売上が入ってきます。
まずここを忘れないようにしましょう。
コスト的な観点からみた利用時間
ただ、「5組がそれぞれ1時間ずつ入るのも1組が5時間入るのも一緒では?」と考えるかもしれません。
- 1時間 × 5組 = 5時間分の売上 …… (1)
- 5時間 × 1組 = 5時間分の売上 …… (2)
しかし、同じように予約枠がみっちり埋まっているとしても、(1)のように1時間ごとにお客様が入れ替わる場合と(2)のように1組のお客様が5時間連続で使ってくれる場合とでは、後者(2)のように一組が長時間連続して使ってくれる方がありがたいのです。
なぜならば、細かくお客様が入れ替わる場合だとその度に部屋の整頓をしにいったりお会計をしたりする必要があり、そのためにマンパワーを割かなければいけないから。
また、もう少し大きな「集客」という視点で捉えた場合にも長時間利用の方がメリットがあります。
(1)と(2)とでは結果的な売上は同じでも(1)の方が(2)の5倍のお客様に来ていただく必要があります。
お客様の数を5倍にする——考えただけでも大変ですよね。
商売において集客というのは大変なコストを要する要素です。
スタジオだと機材を購入したりする方が分かりやすくお金を使うのでそちらの方がコストがかかりそうなイメージがあるかもしれませんが、それは必ずしも正しくありません。
集客するためには、広告を打ったり、看板やチラシを作ったり、サイトやSNSを開設したり、知人を介して口コミを広げたりと、様々な施策を行なわなければなりません。
しかもサイトやSNSは日々更新してゆく必要がありますし、色々な事情(音楽活動をやめたり遠方に引っ越したり)によって来られなくなるお客様もいますから口コミによる新規開拓も一度やったら終わりというわけにはいきません。
これら全てにはマンパワーを含むコストがかかります。
そんな集客を、上の例で言えばお客様の数が5倍になるほど行うというのは現実的ではないですよね。
逆に言えば、1組が5時間利用してくれるなら、集客は1/5で済むのです。
このように、同じように五時間分の予約枠が埋まっていたとしても(1)よりも(2)の方がかけるリソース(コスト)を少なく抑えることができるのです。
そもそも長時間利用に対する割引というのが多くのスタジオで存在するのも、お客様に長時間利用してもらう方がスタジオ側にメリットがあるからです。
したがってスタジオ側としてはお客様に長時間の利用をしてほしい。
飲食店が1組あたりの利用時間を短かくして回転率を上げることで売上を増やそうとするのとは全く逆で、スタジオでは回転率を下げる方が売上向上に繋がるわけで、そういう施策を行うべきなのです。
QSC + ???
スタジオを運営していて「ウチのお客様はなんで短時間の利用が多いんだろう」と既に悩んでいるオーナーさんは少なくないんじゃないでしょうか。
なぜか皆さん一時間とか二時間しか入ってくれない。
そんなジレンマがあるのではないでしょうか。
ここでQSCという概念についてお話しします。
QSCとは「Quality(クオリティ)」、「Service(サービス)」、「Cleanliness(クレンリネス)」の頭文字をとった言葉です。
接客・サービス業において重要とされる三要素で、クオリティとは品質、サービスとは接客、クレンリネスとは清潔さの事です。
これは接客・サービス業を行う企業の多くでスタッフ教育等に取り入れられています。
特にフランチャイズ展開しているような大きな企業だと、この考えはスタッフ教育にムラが出ないようにアルバイト・スタッフに至るまで店舗配属された初日から徹底的に叩き込まれる事が多いです。
QSCの詳しい解説は本稿の目的から逸れますので省きますが、ここで言いたいのは、最近はこのQSCに別の要素を加えて、
- QSC + H
- QSC + V
- QSC + A
といった考え方が重要とされているという事です。
まず「QSC + H」ですが、Hとは「Hospitality(ホスピタリティー)」を指します。
つまり、QSCだけではなくおもてなしの気持ちを持って実行すること。
次の「QSC + V」のVとは「Value(バリュー)」の事です。
お客様が満足するような価値や体験を提供しなければならないという考えです。
そして「QSC + A」、Aは「Atmosphere(アトモスフィア)」。
雰囲気という意味で、良い雰囲気やイメージ、快適な空気感が大切だと考えます。
これらホスピタリティー、バリュー、アトモスフィアに共通する事があります。
それは、いずれもお客様が感じる“快適さ”にも通じているという点です。
相手の視点に立ったおもてなしによってお客様を快適にさせる、価値のある体験で満足していただく事でお客様を快適にさせる、お店の雰囲気を良くする事でお客様が快適に感じる——全てはお客様が快適さを感じてくれる事にも繋がっています。
基本となるQSCにしたってそうです。
良い品質、良い接客、良い清掃はやはりお客様の快適さに繋がります。
接客・サービス業の基本はお客様に快適に思っていただく事であり、それによってお店にもリターンがあるのです。
飲食業等一般的な接客・サービス業において、そのリターンはリピート(また次も利用してもらえる)という形で表れます。
一方これをスタジオに当てはめて考えると、リピートはもちろんですが、快適さは1回の利用時間の長さに直接関わってきます。
つまり、上で書いた“回転率を下げる施策”とはお客様に快適であるとより感じてもらえるようにすることです。
では、スタジオにおける快適さとは何でしょうか。
「椅子を替えろ」のこころは
実際に自分自身がスタジオを利用した事がある方ならお分かりでしょう。
1時間だけならともかく、2〜3時間もしくはそれ以上の間ずっと立ちっぱなしであるということはあまりありません。
途中で休憩することもありますし、あるいはそもそも座って演奏する人も多いでしょう。
ステージで実際に本番の演奏をする時は2時間や3時間立ちっぱなしということも普通です。
しかしスタジオで行うのは本番ではなく個人練習であり、バンドのリハーサルであり、曲作りであり、レコーディングです。
そういう時にわざわざ立ちっぱなしを貫き通す人はあまりいません。
単純に疲れます。
だから、快適な椅子が必要。
人は“疲れる場所”にずっといると、疲れない場所に移ろうという心理になります。
「今日はもう疲れたし、スタジオ出てスタバでも行こっか〜」なんて感じになりますよね。
逆に快適なスタジオであれば、「ここ何時間でも居られるわ〜」ってなります。
たとえその日は1時間しか予約していなくても、快適に練習できることが分かれば次は2時間や3時間で予約してくれるかもしれません。
だからこそ、スタジオは快適な空間でなければならないのです。
快適さを提供する要素はもちろんいくつもあります。
空調が適切に効くということ。
店内に飲み物の自動販売機があるということ。
良い機材が置かれていて、壊れておらず良好な状態が保たれているということ。
等々、挙げればきりがありません。
しかし、例えば良い機材——仮に標準的なものよりも高級なギター・アンプとしましょう——を導入してもその恩恵はギタリストしか受けることができません。
その割に導入コストはかなり高くつきます。
つまりコスパが悪いのですね。
もちろん良い機材を入れることは悪い事ではありません。
予算が十分あるならばそれもアリでしょう。
アピール・ポイントにすることもできます。
ただ、予算が限られている中で普通の標準的なギター・アンプ(RolandのJC-120とかMarshallのJCMシリーズとか)を遥かに超えるような高級アンプを導入してもあまり良い事はありませんよ、と。
それはスタジオにとっても、お客様にとっても、です。
あ、それでも機材を安物で揃えてしまうのは絶対に避けましょうね。
それは単純に「使えないスタジオ」の烙印を押されることに繋がります!
話が逸れましたが、予算をかける優先順位が高いのは標準的なレベルを遥かに超えるような高級機材ではない。
それよりはどのお客様もおしなべてその快適さを享受できるもの——それが椅子です。
椅子が心地よければお客様は長居してくれます。
難しいことではありません、誰しもそれは肌感覚で知っていることでしょう。
しかも椅子の場合、コスパがめちゃくちゃいいです。
もちろん椅子も上を見ればきりがないほど良いもの(高級なもの)はあります。
でもそんな高級なものでなくても、座り心地が良ければいいんです。
なぜならばスタジオの椅子って大手チェーン店でも意外と大した物は置いていなくって、
こういうすぐお尻が痛くなる椅子(↑)とか多いですよね。
他の店がこういうのばっかり使ってくれているお陰で、これよりもちょっといいやつを使うだけでアピール・ポイントになるんです。
たとえば、
こういう座面がふんわりしているものがおすすめです。
これはさらに背もたれもあるのでより快適ですね。
しかも値段もそんなに高くない。
つまりコスパ最強なのです。
ちなみに、椅子には座面の面積が広いものや肘掛けが付いているものもあります。
それらは一般的には快適とされますが、スタジオには不向きです。
なぜなら楽器を弾く時に当たってしまって邪魔になるから。
座面が小さく、肘掛けがなく、座り心地が良さそうな物を選びましょう。
お客様が感じる快適さというのは、使う人の気持ちになって考えなければ分かりません。
肘掛けとか一見良さそうに見えますが、ギターやベースを持って座る人の事を想像すれば逆に邪魔だろうなという事は想像に難くありません。
繰り返しになりますが、肝心なのはお客様の立場になって快適かどうかを見極める事。
もし楽器演奏をしないオーナーさんであっても、今スタジオにある椅子に実際に楽器を持って座ってみましょう。
「この椅子で楽器を持ってずっと座って……3時間とか居られるかな?」と想像をめぐらせると分かります。
もしそれで自信を持って「間違いなく快適だ!」とは思えないなら、むしろそれはチャンスです。
椅子を快適な物に替えるだけで利用時間増加(=売上向上)の可能性があるわけですから。
お客様が感じる快適さを追求する事はなにもお客様のためだけではありません。
むしろそれによってスタジオ側が得る利益があるのです。
しかもそれは“椅子を替える”という非常にシンプルな方法によって実現できます。
是非あらためて一度考えてみてはいかがでしょうか。
もちろんドラム・スローンやキーボード用の椅子も同様です。
たまに高さ調整が簡単にはできないような物を置いているスタジオがありますが、それは良くないですね。
人それぞれ演奏するのに快適な高さというのがありますから、個人が自宅で使用するのならばともかく、色々な人が使うスタジオにおいて高さ調整がしにくいドラム・スローンやキーボード用椅子を置いていては利用時間短縮に繋がってしまいます。
(ドラム・スローンやキーボード用椅子についてはそれぞれ書き出すと長くなりますのでまた別記事に譲りたいと思います。)
お客様を快適にさせることで売上を上げる施策だけでもまだまだアイディアは有り余ってるんですが、長くなるので今回はこの辺りで。
また記事にして紹介してゆきますので読んでいただければと思います!