ダイナミック・マイクについて

dynamic-microphone 機材紹介

マイクロフォン(以下、「マイク」)はスタジオに必須の備品です。リハーサル・スタジオであれレコーディング・スタジオであれ、マイクを置いていない音楽スタジオというのはおよそ考えられないでしょう。ただ、音楽に関わっている方でも意外とマイクについて詳しくは知らないという人も多いものです。これから音楽スタジオや音楽演奏に関わっていこうという方ならなおさらでしょう。そこで今回は、マイクの中でも最も基本的な形式であるダイナミック・マイクについて簡単に解説し、また、どんな形であれスタジオを運営するならば必ず用意しておくべき業界標準となっている製品を紹介いたします。

ダイナミック・マイクの基礎知識

本稿で解説するマイクとは、人間の声や楽器の音を集音するための機材のことです。皆さんカラオケに行けばマイクを持って歌うと思いますが、音を拾うという点において基本的にはそのマイクと同じです。ただ、スタジオ用途にはやはりそれに適したマイクがあります。ここでは間違いのないマイク選びをするためにマイクの基本的な知識を解説したいとおもいます。

ダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクの違い

まず、マイクには大きく分けてダイナミック・マイクというタイプとコンデンサー・マイクというタイプの二種類があります。これは本来的には形や用途の違いというよりも、マイク内部でどのような機構になっているかの違いであり、仕組みが異なるのです。その違いというのが、マイクを動作させるのに電源がいるかいらないかです。ダイナミック・マイクには電源が必要ありません。ダイナミック・マイクとその接続先であるミキサーとの間にあるマイク・ケーブルの中を通っているのは音声信号だけです。一方、コンデンサー・マイクには動作させるために電源が必要となります。電源とは言いますが、マイクにマイク・ケーブルとは別の電源ケーブルを接続するわけではなく、音声信号を送るマイク・ケーブル(XLRケーブル)の中をマイクを動作させるための電気も通る仕組みになっています。このマイク・ケーブルに送る電源をファンタム電源と呼び、その電圧は一般的に48Vとなっています。

おおまかではありますが、

  • ダイナミック・マイク:
    比較的安価/湿度や衝撃等に強い/感度が低い
  • コンデンサー・マイク:
    比較的高価/湿度や衝撃等に弱い/感度が高い

という傾向があります。どちらが良い/悪いというのではなく、使う目的や環境によって使い分けられます。スタジオ(特にリハーサル・スタジオ)の基本装備としてはマイクは耐久性があるものでかつ限られた予算で複数本を揃える必要がありますので、まずはダイナミック・マイクを準備しておくようにしましょう。

ダイナミック・マイクの仕組み

ではダイナミック・マイクはどのような仕組みで電源を使わず音を拾うのでしょうか。人間の声や楽器の音というのは空気の振動であるというのは皆さんご存知のはずです。その空気の振動を電気信号に変化させることでミキサーやアンプといった機器で扱えるようにするのがマイクの役割なのですが、ダイナミック・マイクの場合は振動板(ダイアフラム)というプラスチック・フィルム等でできた部品、コイル、永久磁石の三つが連動してその役割を果たします。まず音(空気の振動)が振動板に伝わることで振動板と繋がっているコイルも振動します。永久磁石の磁界内でそのようにコイルが振動することで電流が生じ、これがマイク・ケーブルを伝わってミキサーへと流れてゆくのです。(これは厳密にはダイナミック・マイクの中でもムービング・コイル型という仕組みで、ダイナミック・マイクの仕組みには他にリボン型といったものもあるのですが、本稿はスタジオでどのようなマイクを使うとよいかについての解説ですので、それも含めた詳しい解説については稿を改めます。)

周波数特性と指向性

マイク選びをする際に必ず出てくる単語が周波数特性と指向性です。こちらも詳しくは別稿で解説したいと思いますが、簡単に言うと周波数特性は低音から高音までのどの帯域に対しての感度が良いかということです。低音を拾いやすいマイクがあれば高音を拾いやすいマイクもあります。また、「周波数特性がフラットである」というのはどの高さの音もバランス良く同じように拾うということで、そのようなマイクで拾われた音は原音により近いものとなります。

指向性というのはどの方向から鳴っている音を拾うのかということです。どの方向からの音も同じように拾う無指向性(全指向性)というタイプのマイクもありますが、スタジオで使うようなダイナミック・マイクの場合は正面からの音のみを拾う単一指向性(カーディオイド)というタイプのものがほとんどです。ただ、正面と言ってもその幅は色々です。非常に狭い範囲での正面もあれば、割と横幅のある正面もあります。どの程度の幅の音までを拾うのかによって、主に以下の種類に分けられます。

  • ショットガン・カーディオイド
  • ウルトラ・カーディオイド
  • ハイパー・カーディオイド
  • スーパー・カーディオイド
  • カーディオイド

これらは上に書いたものほど正面の幅が狭く、下にゆくほど正面の幅は広がります。上の三つほど(ショットガン〜ハイパーあたりまで)はかなり限定された用途に用いられるものですので、音楽スタジオでの汎用マイクとしてダイナミック・マイクを導入する場合はカーディオイドかスーパー・カーディオイドを選べばよいでしょう。

おすすめのダイナミック・マイク

それではここからは具体的におすすめのダイナミック・マイクを紹介します——といっても、ブランドとしてはほぼSHURE一択なのですが(笑)。

SHURE 『SM58』

まず一つめはSHUREの『SM58』です。通称は「ゴッパー」、文句無しにヴォーカル向けダイナミック・マイクのデファクト・スタンダードです。

ライブハウス、リハーサル・スタジオ、レコーディング・スタジオ、放送スタジオ、どこへ行ってもSM58を一本も置いていないということは無いでしょう。こういった施設でまともな所なら(もっと高級なマイクしか置いていないという場合を除けば)ほぼほぼ置いています。リハスタに来られるお客様も当然のように「ゴッパーを一本貸してください」のように仰います。発売開始はなんと1966年! それ以来現在に至るまで世界中で愛され続け、絶大な信頼を得ています。

指向性は単一指向性(カーディオイド)。不要な音が横方向から入るのを防ぐ構造で、ハウリングが起きにくいようになっています。近接効果といって人間の口のような小さい音源にマイクを近づけると低音域のレベルが上がってしまう現象があるのですが、ヴォーカル音声を拾うことを想定しているSM58はその低音域の感度を落とすロールオフという調整が施されています。また、ボール型のグリルはフィルターによって息のノイズを効果的に軽減するように設計されています。基本的にはヴォーカル用ですが、楽器用のマイクが無い場合はこのSM58で楽器の音を拾うために使うこともできます。

また、その耐久性は折り紙付きで、数々の品質検査をくぐり抜けてきたSM58はなかなか壊れません。SHUREの公式サイトではその耐久性がいかに素晴らしいかが語られています(参考:「世界で最も厳しい試験を通過するSM58」)。それを読んでいるとバスに二回轢かれても大丈夫だったなんて話も出てきて、100人乗っても大丈夫なイナバ物置や屋上で象が飼えるヘーベルハウスみたいですね(笑)。リハスタのように多くの人が取っ替え引っ替えマイクを使う現場ではこの頑丈さは非常にありがたいものです。あと、SM58はファンタム電源の供給を受け付けないようになっていますので、ミキサーにおいて全チャンネル一括操作のファンタム電源オン/オフ・スイッチしかない場合でもコンデンサー・マイクとSM58とを混在させて使用することができるとSHURE公式サイトにて言及されています(参考:「ファンタム電源の供給はSM58にダメージを与えますか?」)。(もちろん、基本的にはダイナミック・マイクを接続したチャンネルにはファンタム電源をオフにするというのは大前提ではあるのですが。)

さらに特筆すべきがそのコスト・パフォーマンスです。業界標準としての確固たる地位にある品質を持ちながら、その価格はわずかに一万円ちょっとです。流通量が多いために安く作れるんでしょうね。またこれだけ普及しているお陰で修理にも困りません。マイナーな機種だと壊れても部品が無かったりして修理できないということもありますが、その点SM58は安心ですので業務用利用にも最適です。

なお、Amazon等でSM58を購入する場合、品番が『SM58-LCE』、『SM58S』、『BETA 58A』等、色々あってどれがどういうものなのかよく分からないかもしれません。この内、『SM58S』と『BETA 58A』はSM58とは別機種になります。『SM58S』はSM58に手元のスイッチが付いた機種です。「S」は恐らく「Switch」の「S」でしょうね。カラオケのマイク等には手元スイッチがよく付いていますが、業務用のスタジオ機材の場合は入力信号をオフにする際はミキサーにて行うことが通常ですので基本的に手元スイッチは付いていないことが多いです。余計な機構があるとそれだけ故障の可能性は増えますので、通常のスタジオ用途では『SM58S』ではなく『SM58』でよいでしょう。『BETA 58A』もまた別機種で、こちらは後ほどご紹介しますが周波数特性と指向性がSM58とは異なっています。それでは日本国内でノーマルなSM58を買おうとする時にどの品番のものにすればいいのかというと、その答えは『SM58-LCE』です。「LC」というのは「Less Cable」、つまり「ケーブルは付属してませんよ」ということです。「E」は「マイク・スタンドの3/8″ヨーロッパねじをSHUREのマイク・ホルダーの5/8″ねじに変換する部品が付いていますよ」ということらしいです。「E」は「Europe」の「E」だと思われます。なお、スイッチ付きの機種は『SM58S』であると先ほど書きましたが、こちらも実際にはヨーロッパネジが付属した状態の『SM58SE』として販売されています。ちなみにこの変換ねじだけ別売りもされています(参考:「SHURE マイクホルダー 変換ネジ(3/8インチ→5/8インチ) 95A2050 【国内正規品】 : 楽器・音響機器」)。ということで、『SM58-LCE』を買えば、余計なケーブルは付属せずマイク本体とマイク・ホルダーと変換ネジだけの最低限のセットが手に入るという寸法です。

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SHURE 『SM57』

SM58がヴォーカル用マイクの業界標準であるとするならば、次に紹介する『SM57』は楽器用マイクの業界標準であると言えます。

SM58の「ゴッパー」という愛称に対し、こちらは「ゴーナナ」と呼ばれます。こちらもライブハウスやリハーサル・スタジオやレコーディング・スタジオに行けばたいてい目にすることができるでしょう。ドラムや管楽器といった生楽器の音を拾ったり、あるいはギター・アンプのスピーカーの音を拾ったりと、あらゆる楽器の集音に使われます。

SM58とカートリッジ自体は同じ設計であり、主にグリルがSM58とは異なっています。グリルにポップ・フィルターが付いていない分、周波数特性としてはSM58に比べて高音域までよく拾う印象です。5kHz以上の音をわずかに高く出力する設計になっているということで、特に生楽器(スネアドラムやサックス等)の倍音までしっかりと拾いたい場合ならSM58よりもSM57が適しています。そういった周波数特性から、ヴォーカリストでもあえてSM57を使う人もいます。ただ、SM57は息からマイク内部を守るフィルターが無い構造ですのでSM58に比べて湿気には弱く、また息の雑音も拾いやすいですから、ヴォーカル用に用いる場合はポップ・ガードを併せて使うようにするとよいでしょう。指向性はSM58と同じく単一指向性(カーディオイド)です。ただ、グリルの構造の違いからかSM58よりは指向性は狭いように感じます。

やはり耐久性にも優れております。また、SM58と同じくSM57もファンタム電源からの供給により損傷は受けないことが公式サイトにて触れられています(参考:「ファンタム電源の供給はSM57にダメージを与えますか?」)。値段もSM58と同程度で、コスト・パフォーマンスも申し分ありません。品番に関しても上述のSM58の場合と同じで、ノーマルなものを購入するなら『SM57-LCE』を選びましょう。

SHURE 『BETA 58A』

先に紹介しましたSM58世界標準として使われているモデルですが、そのSM58を更にブラッシュアップしたような位置付けにあるのが『BETA 58A』です。こちらも基本的にはヴォーカル用に使われるマイクです。

実際に使ってみてすぐに分かるのが、指向性がSM58よりも狭くなっていることです。カタログにおいてもSM58がカーディオイドであるのに対し、BETA 58Aはスーパー・カーディオイドであると記載されています。より狭い範囲の音しか拾いませんのでマイクの扱いに不慣れなヴォーカリストにとってはSM58に比べると少し扱いづらいかもしれませんが、その分周りの不要な雑音を拾いにくいということです。マイクに対してどの位置で歌えばよいかを心得ているようなある程度熟練したヴォーカリストであれば、SM58よりもより自分の声のみを周囲の雑音に悩まされることなく伝えることができるでしょう。また、他にSM58との違いとしては、出力が4dB高くなっている、周波数特性においてローエンドとハイエンドが拡張されている、グリルがより硬質なものになっている、といった点が挙げられます。

価格的にはSM58より少し高いとはいえショップによっては二万円以下で買えますので、例えばリハスタの備品として準備するならば基本的にはSM58を多く揃えつつも、こだわりのあるヴォーカリストのためにBETA 58Aも数本用意しておくといった感じが良いのではないでしょうか。こちらも品番が複数存在していて、ネットで調べると『BETA 58A』と『BETA 58A-X』の二種類が主に見つかると思います。どちらもBETA 58Aであることには変わりはないのですが、Xが付かない『BETA 58A』が旧モデル、Xが付く『BETA 58A-X』が新モデルということなので、当記事からのリンクは新モデルである『BETA 58A-X』の方に統一して貼っておくこととします。

SHURE 『BETA 57A』

SM58に対してBETA 58AがあったようにSM57に対してもより洗練されたモデルがあります。それが『BETA 57A』です。

こちらもBETA 58ASM58に対してそうであったのと同じく、SM57に比べて、

  • より狭い指向性(スーパー・カーディオイド)
  • 出力レベルが4dB大きい
  • ハンドリング・ノイズが少ない
  • グリルが硬い
  • 周波数特性に関してローエンドとハイエンドが広い

といった特徴があることが公式サイトにて言及されています(参考:「BETA57AとSM57の違いは何ですか?」)。

やはりSM57は基本装備としておさえつつも、それにプラスアルファを求めるならこのBETA 57Aは良い選択肢となりうるでしょう。品番に関してもBETA 58Aと同じでXが付くもの/付かないものがありますが、Xが付かない『BETA 57A』が旧モデル、Xが付く『BETA 57A-X』が新モデルです。

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まとめ

ここまで音楽スタジオに必須のダイナミック・マイクについて見てきました。もちろんここで紹介しきれなかったダイナミック・マイクはSHURE以外のメーカーのものも含め沢山ありますし、さらにいずれはコンデンサー・マイクの導入を考えることもあるでしょう。ただ、やはり最初はデファクト・スタンダードであるSHUREのSM58SM57を知り、そこを基準として他のマイクにも手を広げてゆくというのが間違いも無く、王道であると言えるでしょう。

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