“スタジオ”——あなたにとってそれはどのようなイメージでしょうか。このブログにたどり着いたということは、おそらくそれはテレビ局のスタジオや写真撮影スタジオやダンス・スタジオではなく、音楽を演奏することを目的としたスタジオなのではないかと思います。
ただ、音楽スタジオと言ってもその形態は実に様々です。リハーサル・スタジオ(練習用のスタジオ)なのかレコーディング・スタジオ(録音用のスタジオ)なのかで使用する機材等は大きく異なります。また、ビジネスとして経営するスタジオなのか趣味で自宅に作るスタジオなのかという違いもあります。先ほど挙げた写真やダンスのスタジオに音楽スタジオとしての機能も付加したいと考えている方もいらっしゃるかもしれません。
いずれにせよ、このブログではそういった音楽スタジオを運営するために有用な知識を紹介してゆきたいと思っています。
自己紹介
このブログを書いています私——ウマノは、リハーサル・スタジオのスタッフとして勤務した経験を活かし、スタジオを運営したいけれども悩みがあるという方々のためにアドバイスを行っています。スタジオ以外の業界でのそれも含めると接客・サービス業としての経験は20年にのぼります。
また、小規模の特定業種の個人経営者向け経営コンサルタント会社にも勤務していました。そこでのコンサルティングの対象は音楽スタジオではありませんでしたが、特定の分野に特化した個人経営の業態という点では音楽スタジオに通づるものも多く、その時の経験は現在音楽スタジオに向けて行っているアドバイスにも存分に活かされています。
また、私自身も音楽演奏活動を行っており、ミュージシャンとしての視点も持ち合わせています。スタジオ経営者の方々の中には意外とご自身では音楽演奏をしない(あくまでビジネスとしてスタジオを経営されている)方もいらっしゃるので、そういった方々に向けて音楽家としての視点からのアドバイスも行っています。
当ブログの目的
ではそんな私がなぜこのブログを立ち上げたのか——。コンサルタントとして音楽スタジオのお手伝いをするならば、実際に現在私が携わっているスタジオにだけアドバイスをし続けていればよいはずです。逆に私の経験から得た知恵をこのようにネットで広く公開してしまうのは、ともすれば私や私が携わっているスタジオにとってはマイナスになりかねません。なぜならばそれは敵に塩を送ること、競合相手に有益な情報を渡すことでもあるからです。
しかしそれだけではこの業界全体が立ち行かなくなる、今はそういう状況が目の前にあります。楽器演奏を楽しむ人口は決して少なくはありませんが、ここ十年ほどでの音楽業界自体の構造の変化やスタジオ業界の価格競争による売上単価の減少、そしてコロナ禍によるエンターテイメントへのダメージ。そういった様々な事情により、音楽スタジオはどこも非常に厳しい経営となっています。とくにコロナ禍は、人々が集まって音楽を演奏するという文化自体すら消してしまいかねない影響がありました。残念ながら閉鎖せざるを得なくなってしまった音楽スタジオも1件や2件ではありません。このままでは業界そのものが無くなってしまうというほどの危機に私達は直面しています。
そもそも音楽スタジオ業界では個人経営での運営が多くを占めていました。もちろん大手チェーンの音楽スタジオも複数ありますが他の業界に比べると少なく、スタジオといえば音楽好きの人が趣味が高じて始めた個人経営店といったイメージも皆さんの中にあるのではないでしょうか。そういったスタジオが沢山あるということ自体は色んな経営者によるそれぞれのカラー、多様性があって素晴らしい事だと思います。ただ、そういった個人店が経営的に、あるいは運営の面で、必ずしも合理的であるとは限りません。音楽に関しては深い知識や見識があっても、接客・サービス業としては素人であるということはよくあるでしょう。また、逆に色々なビジネスをする中で音楽スタジオを始めてみたが音楽そのものに関してはあまり詳しくないという経営者もいらっしゃると思います。例えば他業種の大手チェーン(コンビニやファストフード等)では取り扱う商品の面においても接客・サービスの面においても膨大なノウハウをストックしています。そのような経営のためのインフラとも言える知恵の集合が既にあるからこそ、大手チェーンは店舗の運営に関して一から悩むことはなく経営ができるのです。しかし、多くの個人経営音楽スタジオにはそのような土台が無い、あるいはあっても音楽的な面か経営的な面かのどちらかの土台しかなかったりして、そのために大手チェーンのような合理的な運営ができていないというケースが多く見られるのです。
もちろん、合理的な運営をすることだけが音楽スタジオの目的ではありません。愛する音楽に資することこそが重要で、そのためにスタジオをしているという気持ちは多かれ少なかれどのスタジオ経営者もお持ちでしょう。また、自分の趣味全開でやりたいようにやるということが第一という方もいらっしゃるかと思いますし、それはそれで素晴らしい生き方であることは間違いありません。ただ、愛する音楽に身を捧げるにしろ、自分の好きなようにスタジオを作るにせよ、最低限の経営がうまくいっていなければ、その夢を実現し持続することは困難になってしまいます。どんなに素敵な理想があっても、現実問題として経営がうまくいっていなければ絵に描いた餅です。
そうなってしまうと個性的なスタジオは淘汰され、そこに集まっていたミュージシャンの玉子や音楽愛好家は行き場を失い、あるいは音楽を楽しむ事をやめてしまう人もいるかもしれません。それは音楽業界全体の衰退に繋がる。そのような状況ではこれから生まれてくるはずだった素晴らしい音楽が生み出されない未来が待っている。それだけは避けたいと私は考えているのです。
私の最大の目的は、素晴らしい音楽が沢山生み出され、それを楽しむ人が沢山いる未来を作ること。そのためには楽器を演奏する人達のゆりかごとなる素敵な音楽スタジオが各地に十分になければならない。そしてまたそのためには、多様なスタジオ経営者が瑣末な事に思い悩むことなくその個性を存分に発揮できなければならない。だからこそ、私は自分の経験から得てきた知恵の数々をスタジオ運営に関わる全ての人達に届けたいのです。
読者の方々へ
このブログは、上記のような目的および筆者の経験の特性から、第一にはリハーサル・スタジオの運営に関わっている方々を主な読者として想定しています。ではそれ以外の方にとって有益な情報は無いのかというと、そうではありません。まず楽器演奏をしている方々には当ブログの記事の数々は大いに参考になることでしょう。私自身も楽器を演奏するので分かりますが、練習や音源制作のために自宅でスタジオ的な環境を構築したいという方は少なくないと思います。「スタジオを作る」という大袈裟なものでなくても、特定の機材に関してだけは自宅でスタジオレベルの物を導入したいと考える人もいらっしゃるでしょう。また、何らかのレンタルスペースの経営をしていて部分的に音楽スタジオ的な機能も持たせたいという方、リハーサル・スタジオではなくレコーディング・スタジオをしたいという方、経営をしているわけではないが何らかのイベント等でスタジオ的な事に関する知識を早急に仕入れたい方……にも役立つ記事は多いと思われます。
目的は読者の方々お一人お一人で様々でしょうが、私がここで紹介する知識が皆さんのお役に立てれば嬉しく思います。