ギター・シールドについて

shielded-cable 機材紹介

スタジオに必須の備品の一つにギター・シールドがあります。“ギター”・シールドとは言いますが、ベースをアンプに接続するためにも基本的には同じ物を使います。「シールド」というのは主にギタリストやベーシストを始めミュージシャンが用いる通称で、正しく言うなら「1/4インチTSフォーンプラグが付いたシールド・ケーブル」といったところでしょうか。スタジオでそのように呼ぶ人はあまりいませんが(笑)。本稿ではいわゆる「シールド」についての正しい知識と、スタジオで用いるのにふさわしいと思われる製品を厳選して紹介します。

シールドの基礎知識

スタジオに携わる方が皆さんギターやベースについての知識があるわけではないと思いますので、簡単にシールドについて確認しておきましょう。

シールドとは

上にも書いたようにギターやベースとアンプとを繋ぐケーブル全体を「シールド」と呼ぶのは通称です。そのようなケーブルは、金属線の周りを絶縁し、さらにその周りを銅やアルミや導電性ポリマーの層で覆っている構造になっています。この「銅やアルミや導電性ポリマーの層」という部分が本当の意味でのシールドです。また、そのような構造になっているケーブルは、本来はそのケーブルに付いている端子がどんな形であってもシールド・ケーブルであるのですが、慣用的に音楽スタジオ等でのミュージシャンの文脈では特に1/4インチTSフォーンプラグが付いたシールド・ケーブルを「シールド」と呼びます。(たまにXLR端子が付いたマイク用のケーブルを「マイク・シールド」と呼ぶ人もいますが。)したがって、本稿でも特に注意書きが無い場合は「1/4インチTSフォーンプラグが付いたシールド・ケーブル」を「シールド」と呼ぶことにします。

1/4インチTSフォーンプラグとは

「1/4インチTSフォーンプラグ」についても簡単に説明しておきます。

TS phone plug and TRS phone plug
1/4インチTSフォーン・プラグ(左)と1/4インチTRSフォーン・プラグ(右)
1/8" phone plug and 1/4" phone plug
3.5mm TRSフォーン・プラグ(左)と1/4インチTRSフォーン・プラグ(右)

まず「フォーンプラグ」というのは写真のような端子のことで、大きさ(直径)も種類もそれぞれ幾つかあります。元々は昔に電話交換手が電話交換台で抜き差しするのに用いていたため“フォーン”プラグといいます。大きさ(直径)は標準(6.3mm=1/4インチ)、ミニ(3.5mm)、ミニミニ(2.5mm)などがあります。また、金属部分が絶縁リングによって幾つの極に分かれているかによってTS(2極)、TRS(3極)といった種類があります。フォーン・プラグについてより詳しくは別稿で解説したいと思いますが、ギターやベースの接続に使われるのはこの内の標準サイズで2極のもの、つまり1/4インチTSフォーンプラグです。

1/4" TS phone plug
1/4インチTSフォーン・プラグ

どのようなシールドを使えばよいか

シールドをスタジオに導入するため楽器店に買いに行ったことがある方はお分かりかと思いますが、シールドについてはとても沢山の製品が存在しています。上述した大きさ(直径)と種類の他に、ケーブルの長さという要素もあります。いったい何を基準に買えばよいのか迷ったこともあるかもしれません。ここではスタジオで使うべきシールドを選ぶための基準について解説します。

長さ

シールドの長さは、一般的に市販されているものでもパッチ・ケーブルと呼ばれる10cm程のものから大きめの会場で用いるような20mといったものまで様々です。ではその中からどのような長さのものを選べばよいのでしょうか。あまりに短いものだと演奏する立ち位置とアンプとの間に十分な距離がとれません。逆に長ければよいのかというとそうでもなく、長すぎると絡まって取り回しに苦労しますし、重さや体積もそれだけありますから持ち運びや保管も大変です。また、長いほど余計なノイズが発生する可能性も増えます。
従って、ご自身のスタジオで使用される環境に合ったものを選ぶべきなのですが、例えばバンド練習等をする15畳前後の一般的なリハーサル・スタジオであれば5mのものを中心に揃えておけばよいでしょう。スタジオではギタリストやベーシストはそれぞれのアンプからそんなに遠く離れて演奏することはありません。ヴォーカル・マイク用ケーブルの場合はキーボーディストやドラマーがコーラスをするためにマイクを立てることもあるのでスタジオ内の様々な箇所から届くだけの長さが必要となりますが、ギターやベースのためのシールドの場合はある程度アンプの設置位置にもよって必要なシールドの長さはコントロールもできますのでほどほどの長さがあれば構わないでしょう。ただ、5mのもの以外のシールドが全く無いという状態ですとアンプの位置を一時的に変更した場合に届かないということもありえますので、少し長めのものも少数で結構ですが準備しておいた方がよいかもしれません。逆に、楽器とアンプとの間にエフェクターを挟む場合は、複数使うシールドが5mのものばかりだと邪魔になってしまいます。そういう用途のために短いもの(3mのもの等)も何本かあった方がよいかと思います。

また、先ほど少しだけ触れたパッチ・ケーブルも数本は用意しておくとよいかもしれません。パッチ・ケーブルとは、ギタリストやベーシストが複数個のエフェクター同士を繋げる時によく用いる10cm程の短いシールドです。基本的にはギターやベースとアンプとを繋げるシールドと同じ構造のもので、ただ長さが短いだけなのですが、こちらは慣例的にシールドとは呼ばずパッチ・ケーブルと呼ぶことが多いです。

シールドの品質

スタジオで使うシールドに求められる品質としては、

  • 断線しにくいこと
  • ノイズが乗りにくいこと

の二点がまず重要です。
音質は重要ではないの? と思う方もいらっしゃるかもしれません。練習目的のスタジオではなくレコーディングをするためのスタジオである場合や、あるいは予算が潤沢にあって高級な製品を買う余裕がある場合であれば、シールドにもお金をかけて音質を重視したものを導入すればよいかもしれません。ただ、一般的なリハーサル・スタジオやこれからプライベート・スタジオを作ろうとしている方にとってはそこまで高品質なものは必要ではないことが多いのではないかと思います。ケーブル類というのは音質を求めれば本当に上限が無い世界で、高級ケーブルというのはいくらでも上には上があります。オーディオ関係の分野でそういう沼にはまってしまうオーディオ・マニアがいるという話は聞いたことがあるのではないでしょうか。スタジオの場合、そこに予算をつぎ込んでしまうと他の機材に予算が回らなくなってしまっては困ります。従って、あまりに音質を重視するよりは、断線しにくくノイズが乗りにくい定評のあるスタンダードなものを選ぶことをお勧めします。

断線というのは、シールド内部のいずれかの箇所が壊れて電気信号が通らなくなることです。シールドは一車線しかない道路のようなもので、どこかで問題があるとそこから先に電気信号が進まず、音が出なくなります。途切れ途切れにしか音が出なくなったり、あるいは全く出なくなる場合もあります。そうなってしまっては演奏不可能な状態になってしまいますので、まずは堅牢さが重要なのです。もちろん物である以上は扱いが雑であったり経年劣化によってどんな製品でも壊れてしまう時はありますが、後ほど紹介するようなスタジオ定番の製品はそれだけ堅牢さについても信頼性があるのでお勧めです。
一方、最近ではケーブルのメーカーではなく大手楽器販売会社からプライベート・ブランドの非常に安いシールドも出ていますが、こちらは私の経験上、品質という点では正直あまりおすすめできないものが多いと思います。買ったばかりの頃から断線を経験したことも一度や二度ではありません。また、家で特定のアンプに繋ぎっぱなしとかであればまだ構いませんが、スタジオで色んな人がその都度セッティングを繰り返すような状況での耐久性は持ち合わせていないものが多いと言えます。シールドについた巻き癖がなかなか取れないケースも多々あります。こういった製品は少なくとも業務用には向かないと言える

また、シールドにはノイズが乗りやすいタイプと乗りにくいタイプがあります。よく言われるのが「カール・コードはノイズが乗りやすい」というものです。カール・コードというのはケーブルが螺旋状にくるくると回っていて、そのため引っ張ると螺旋が伸びるタイプのコードです。昔の電話機と受話器の間を繋いでいたコードといえば分かるでしょうか(と言っても、それが分かる人の方がもう少ないかもしれませんが(笑))。

1960〜70年代のロック・ギタリストがよく使用し、そのステージ映えする見た目やジミ・ヘンドリックスが使っていたことからカール・コードに憧れた方もいらっしゃるかもしれません。現在では昔に比べてノイズが乗りにくいカール・コードも販売されていますが、やはり全体的な傾向としてはノイズに関してはカール・コードよりも一般的なストレートなタイプの方に分があるでしょう。スタジオ用途ではステージ上とは違って遠くまで動き回ることも少ないので、伸び縮みするという利点もそれ程は活かせません。少なくとも基本的な備品を揃えると言う段階ではストレートなタイプを選んでいた方がいいように思います。ただ、カール・コードにはそれでしか出せないヴィンテージ感のある音色の良さというのもありますので、通常のシールドを一通り揃えた上で変わり種として1本ぐらい持っておくのもよいかもしれません。

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ストレート型かL字型か

シールドのプラグの形状にも種類があります。ストレート型かL字型かです。シールドには両端にプラグが付いていますので、両方がストレート型のもの、両方がL字型のもの、そして片方がストレート型でもう一方がL字型のものがあります。レスポール・タイプのギターのようにギターの縁にジャックがある楽器ですとL字型の方がかさばらなくて便利ではありますが、楽器によってはL字型だとうまくジャックにプラグをさせないこともあります。個人用途であればご自身の楽器にあったものを選べばよいのですが、スタジオ等で色々な人が使うことを想定する場合はストレート型のものにしておいた方が無難と言えるでしょう。

色のバリエーション

あと一点、特にリハスタ等の業務用スタジオの備品としてシールドを導入する際に意外と気にしていた方がよいのが、豊富なカラー・バリエーションがあるかどうかです。これは見た目を気にするためではありません。ステージ上で用いる用途では目立たたせる/目立たなくするために色を選んだり、あるいはライブやミュージシャンのイメージに合わせて色を選んだりしますが、スタジオではシールドの色に関して別の実用的な目的があります。それは、誰がどのシールドを使っているのかを分かりやすくするためです。例えばギタリストが二人以上いて、ベーシストがいて、さらにマイクも複数本使っていたりすると、広くないスタジオでは床中がケーブルだらけになってどのケーブルが誰のものかが分からなくなることがよくあります。もちろんケーブルの端に目印を付けておくなどの方法もありますが、ケーブル自体がそれぞれ別々の色であれば一目でそれが判別できるのです。また、バンドのリハーサルが終わってケーブルを片付ける際にも、ケーブルが同じ色ばかりであるよりは別々の色である方が絡まりを解くのがスムーズです。こういった実際的な理由もあって、シールドには色のバリエーションがある方がよいのです。

おすすめのシールド

ではここまでに書いた事を踏まえた上で、おすすめのシールドを紹介したいと思います。

CANARE 『LCシリーズ』

シールドの定番中の定番、デファクト・スタンダードと言えるのが、CANARA(カナレ)の『LCシリーズ』です。

日本国内のリハーサル・スタジオでのシェアはかなりのものなのではないかと思います。まともなリハスタやライブハウスでシールドを借りようとしたら大抵はこれが出てくるでしょう。CANAREのケーブルは放送業界でも長年使われ、その信頼性は折り紙付きです。そして、それだけ業界標準と言える品質を維持しつつも値段は決して高くはなく、コスト・パフォーマンスにも優れています。長さや色のバリエーションも多彩です。音色もフラットで、どこのシールドを買うか迷ったならばとりあえずCANAREのケーブルにしておけば間違いは無いでしょう。

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BELDEN 『#8412』 他

CANAREが国内でのデファクト・スタンダードであるとするならば、BELDENは世界的なそれと言えるでしょう。BELDENも沢山の種類のケーブルを販売していますが、中でも『#8412』、『#9395』、『#9778』の三種類が有名です。

まず『#8412』は2芯ツイストペア構造になっているためノイズに強いのが特長です。しっかりとパワー感がありつつもバランスの良い音色が感じられます。2芯ツイストペア構造のため他の2製品よりは少しケーブル径が太めです。BELDENのどのシールドにするか迷っているならひとまず『#8412』にしておくとよいかと思います。

一方、『#9395』と『#9778』は1芯タイプで、ノイズに対する強さは『#8412』ほどではありませんが、その分ケーブル径が細めで取り回しやすいのが特長です。この二種類はサウンド面でそれぞれ異なる個性を持ち、『#9395』の方がしっかりと中音域が出る印象、『#9778』の方が高音域が伸びる印象です。どのような音楽を演奏するかによってどちらかを選ぶことになるので、とりあえずスタンダードなものをということであれば前述の『#8412』がおすすめですが、サウンドの違いのあるものを複数取り揃えておきたいということでしたら『#9395』と『#9778』を用意しておくのがよいでしょう。

なお、BELDENは基本的にケーブル自体(プラグが付いていない状態のケーブル)のメーカーですので、楽器店やネットで完成品のシールドとして販売されているものはケーブル販売会社がBELDENのケーブルにプラグを付ける加工をして楽器用シールド製品としているものです。BELDEN製なのに妙に安いと思ったら粗悪なプラグやハンダが付いた製品だった——ということもありますので、信頼できる販売店から正規ライセンス製品を購入されることをおすすめします。もちろん当ブログから貼っているリンク先はきちんとした製品を取り扱っている販売店ですのでご安心ください。

MONSTER 『MONSTER CABLE』

MONSTER社の『MONSTER CABLE(モンスター・ケーブル)』は高級ケーブル・ブランドとして有名で、そのシールドは名だたるロック・ミュージシャンを中心に愛用者が多い事でも知られています。高級といってもオーディオ・マニアの人達が言う目玉が飛び出るような価格というわけではなく、あくまでミュージシャンの手が届く価格帯での高級ですので、少し予算に余裕があるならばMONSTER CABLEも候補に入れてみるのも良いかもしれません。一般的には太い音が出るというイメージのMONSTER CABLEですが、「太く“なる”」というよりはそのフラットな特性により本来の楽器の音色がしっかりと伝わるという印象でしょうか。音色だけでなく耐久性もプロ使用であり、安心して使えるシールドです。

ただし、CANAREの『LCシリーズ』やBELDENの『#8412』のように「とりあえずこの一種類でOK!」というのとは異なり、MONSTER CABLEはロック・ギター向け、ベース向け、アコースティック向け……等、用途が細分化されています。特に有名なのはロック・ギター向けの『MONSTER ROCK』で、どうしても一種類に絞るということでしたらこれでしょうか。

別にこれをエレアコを繋ぐために使ってはいけないというわけではありませんので。また、フラッグシップ・モデルの『STUDIO PRO 2000 SPEAKER』というのもありますが、長さが3フィート(約90cm)のものしかないのが残念なところです。
また、MONSTER CABLEは製品の質としては申し分ないのですが全体的に長さのバリエーションや色のバリエーションに乏しいので、音質よりもそういったバリエーションが必要な環境ではCANALEの方に分があると言えるかもしれません。

まとめ

今回はシールドの基本知識と代表的な製品を紹介しました。皆さんの使用環境や用途によってどのような製品を選ぶかは異なってくると思いますが、いずれにせよどんなシールドを使っているかでそのスタジオがギタリストやベーシストにどれだけ理解があるかが計られます。ひたすら安いだけの粗悪なシールドではなく、本稿で紹介したような定評あるシールドはスタジオの基本装備としては必須なのではないでしょうか。

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